リンドブルムの夜想曲


新たな年が明けて1週間ほどが過ぎたリンドブルムの劇場街。
新年の祝いの浮かれた気分と喧噪も終わり、いつもと変わらぬ日々が戻って来た、そんな街の一角で美しいハープの音色が響き渡る。
芸に覚えのある者達が集い、行き交う街の人々も目の肥えた者ばかり。芸術の街に住む大勢の人々が、夕暮れの濃瑠璃の空の下に響くハープの音に聞き惚れている様から、弾き手の技量はかなりのものと知れる。
小さな噴水の端に腰を下ろし、ハープを奏でているのは、珍しい茶色の肌をした若いブルメシア人。
彼の側にちょこん、と立って熱心に曲に聞き入っている幼い少年は、良く似た容姿から一目で弾き手の青年の息子と窺い知る事が出来る。
多重和音の残響を残して華麗な演奏が終わると、幾つもの拍手が鳴り響く。
幼い少年がとてとてと観客の元へと走り寄って帽子を差し出すと、次々にギルがその中に投げ入れられる。その度に少年は尻尾を振り振り可愛いらしい笑みを浮かべると、ぴょこんと丁寧に頭を下げる。
ここ劇場街では観客が楽しんだ分だけ、相応の報酬が支払われるのだ。
最後の観客からお金を貰って、少年――ブルメシア王国第一王子リートは、父親のパックの所に戻って来た。
「へぇ、結構集まったな。手伝ってくれた褒美に、後でこの金でおまえの好きなカードを買ってやろう」
「本当?」
帽子の中を覗き込みながら、パックが息子の頭をグリグリと撫でる。
はしゃぐ親子の背後で、パンパンと拍手の音がした。
振り返ると、小麦色の髪と尻尾を持った青年がニヤリと笑みを浮かべる。
「ジタン!」
「ジタンおじちゃん!」
「たまたま通りかかったら、ブルメシアの国王陛下が御自らハープを奏でてるじゃないか。えらくたまげたぜ。向こうの角でずっと聞かせて貰ったけど、大した腕だな。おまえが楽が得意だなんて、ちっとも知らなかったぜ」
感心したようなジタンの誉め言葉に、パックもニヤリと同じ笑みを返す。
「大戦前に旅をしている間、これで路銀を稼いで来たからな。腕も磨かれるさ、死活問題だからな」
確かに、とジタンが笑い声を立てる。
ジタンも故郷を求めて1人旅、あるいはフライヤと共に旅をしていた間、道端で1人芝居を披露して路銀を稼いだ経験がある。
ジタンの目の前に、スッと帽子が差し出された。
ぱたぱたと尻尾を振って、期待に満ちたつぶらな幼い瞳で見上げてくるリートは、極悪なまでに可愛らしい。
子供を使うなんて反則技だぜと心の中で毒づきながらも、ジタンは苦笑いをしながらギルを帽子の中に放り込んだ。たちまち笑み崩れたリートが王子らしく丁寧な仕草で頭を下げると、ジタンはその頭をぽんぽんと撫でてやる。
「良く仕込んであるだろう? 俺の自慢の息子だからな」
「…自慢はいいけどさ、何でブルメシアの国王陛下と世継ぎの王子殿下が、こんな所で大道芸なんかしてるんだ? 来週のダガーの誕生日の翌日は、霧の三大国が集まる大事な会議があるだろうに」
ジタンが首を傾げる。
「そう言うアレクサンドリア大公殿下だって、毎年ガーネット女王の誕生日にはタンタラス劇団員に戻って、女王に劇を披露しているじゃないか」
パックが明るく声を立てる。
「いいんだよ、年に1度のダガーと俺の楽しみなんだから」
近年になって、その年に1度きりの劇団員に、ジタンとガーネットの間に生まれた子供達が加わった。
ジタンは劇の練習の為、年明け早々に子供達と一緒に、リンドブルムのタンタラス団へとやって来ているのだった。
「おまえの演劇や盗賊技みたいに、こいつにも何でもいいから子供のうちから芸を仕込んでおけば、王様やめても生きて行けるだろ?
とりあえずは三大国の会議前に各国の実情を視察方々、旅の経験をさせてるって感じかな」
見事に趣味と実益を兼ねたパックの理屈に、ジタンは苦笑するしかない。
「リートが1人前になったら、俺はこいつに王位を譲って旅に出るのが夢なんだ。
あいつとも約束したしな、俺がいつか自由の身になったら、一緒に旅をしようって」
ビビが止まってしまう少し前、まだ動けるうちにとその事を隠して、ビビがエーコとシド大公に頼んでヒルダガルデでかつての仲間達の元を次々に訪れた。
少しづつ、本当に少しづつ復興を始めたばかりのブルメシアで、パックとビビは互いの旅の冒険譚を語り合い、いつの日か一緒に旅をしようと約束を交わした。
パックはフライヤや事情に一番詳しいガーネットから、ビビがいつか止まってしまう事を聞いていて……ビビもまた、父王亡き後ブルメシア王国を小さな両肩に背負ったパックが自由になれる日など、もしかしたら来ないかも知れぬ遠い遠い未来の話だと知っていて……それでも互いに固く誓った約束。
ビビが初めての友達と交わした、少年の日の見果てぬ夢。
「…なのにあいつは先に空へと還っちまったから、俺は約束を破った仕返しに、いっぱい旅をしてその自慢話を、いつの日か空の上であいつにしてやらなくちゃならないからな」
後にその見聞録で、ブルメシア復興の功績のみならず冒険王としても後世に広く名を残す事になるパックは、その書き出しを既に心の中で決めている。
“我が友ビビ・オルニティアに。そして最愛の息子リートに、この冒険譚を捧ぐ”――と。
「…なら、おまえの“いつか帰るところ”は、旅の空の下なのか?」
「然りとも言えるし、否とも言えるな。俺の帰るところは良くも悪くもブルメシアだが、現在ブルメシアの玉座に縛られてる俺が、いつかブルメシアに“帰る”為には、一度ブルメシアを離れなくちゃならないだろ」
パックが肩をすくめる。
「だからその夢を実現させる為にも、リートには早く1人前になってもらわんとな。
こいつも俺みたいに旅をしてみたいって前々から言ってたから、ガーネット女王の誕生日はちょうどいい機会になったし」
「ホントに2人きりで旅をしてるのか? 後でどっかの角からおっかない竜騎士様が現れたりして」
ジタンが言うのはフラットレイの事だ。大袈裟に身震いしてみせるジタンに、パックが手を横に振る。
「それはない。下手に護衛を引き連れてブルメシア国王が他国をこっそり旅して回ったりしたら、妙な揚げ足を取りたがる連中に外交問題にされかねんからな。俺とリート2人の親子水入らずの旅だよ、本当に」
「へーえ、よくフライヤやフラットレイが許したな。それにおまえの嫁さんも」
目を丸くするジタンの袖を、リートが引っ張った。
「あのね、母上がお弁当作ってくれたの。王都の外にある丘に父上と2人だけでお出かけするって言って来たから、フラットレイもフライヤもそれからアレスとラスも、みんないってらっしゃいって言ってバイバイしてくれたの〜」
いつもの大樹のある丘の上にお弁当持参で遊びに行くふりをして、何食わぬ顔で堂々と王都を出て、荷物と一緒に隠しておいたチョコボに乗って、そのままリンドブルムに向かった国王親子だった。
まさか王妃までもが大脱走計画に荷担しているとは露にも思わぬ王宮の者達は、後で王妃から真相を聞かされて大騒ぎをしている事だろう。
悪戯好きの国王陛下はその様子を想像するだけで、してやったりといった笑みが浮かぶ。
「なるほど、嫁さんも一緒になってみんなを騙した訳か。結構やるじゃねぇか、おまえの嫁さん」
「まぁな」
パックの返事はそっけないが、揺れる尻尾が彼のノロケぶりを如実に表している。
「ところでさ、こんな所でずっと立ち話も何だし、メシまだなら一緒に食いにいかないか? メシと酒のうまい店があるぜ」
「いいけど、おまえんとこのチビ達はどうしたんだ?」
「ああ、昼間の劇の稽古の疲れで眠っちまったんだ。だからたまには、リンドブルムの古馴染みの店に顔を出すのもいいかなって思って、出て来たとこだったんだ」
「ふーん。そいでもって、メシと酒の他に美人の女の子がいるんだろ、その店。うちのチビの教育に良くないあやしげな店でなけりゃ、別にかまわんけどな」
すっかり見抜かれている、というかジタンを知る者なら、誰でも簡単にその程度の予想がつく。
楽しげに話し込んでるパックとジタンの傍らにぽつんと立っていたリートを、白いローブを被ったごく若い女性が手招きをする。
てけてけと走り寄ったリートに、その女性はぴかぴかに光る金貨を手渡した。
思いもかけない大金のおひねりにリートが目を丸くして彼女を見上げると、額に角を持つ青い髪の女性はにっこり笑ってこう言った。
「リクエストお願い出来るかしら、ブルメシアの大道芸人さん。曲は――そうね“君の小鳥になりたい”のテーマ曲を」
よく通る涼やかな声に、パックが胸に手を当て恭しく頭を垂れる。その仕草は大道芸人のものではなく、王族のそれだ。
「喜んで貴女の為に演奏させていただきます、レディー」
だがパックは手にしたハープを傍らに置くと、懐から少し古びた鳩笛を取り出し、静かにそれを吹き始める。
かつてフラットレイから贈られたその鳩笛は、ハープのような華やかさはないが、暖かな親愛に満ちた美しい旋律が、噴水の音をバックに辺りに鳴り響く。
旅の糧を得る為に奏でた派手で華やかな演奏ではなく、本当に大切な人だけに聞かせたい優しい音色。どこか郷愁漂う鳩笛の音に合わせて、小さなネズミの子の尻尾と、それより大きな小麦色の尻尾が揺れる。
通りの向こうで派手な集団パフォーマンスが始まった為に、観客はリートとジタン、そしてエーコのたった3人。
だがパックは慌てず騒がず。3人の大切な観客の為に、心を込めて曲を奏で続ける。
パックの鳩笛の音は、友の還った夜空へと静かに消えていった。

小さなもみじと、細く白い手、器用さでは誰にも負けない大きな手が、拍手の三重奏を奏でる。
パックは一礼をすると、リートに鳩笛を突き出した。
「次はおまえがやってみろ。お辞儀だって立派な演技のうちだ。今までで少しは度胸ついたろ?」
「でも…」
不安げに父王を見上げるリートを、パックは殊更突き放す。
「いいからやってみろよ。おまえが報酬を受け取った分だけ、俺達は観客を楽しませる義務がある。
向こうに流れた観客を取り戻せ、なんて事は言わん。いつも会う度おまえを可愛がってくれるリンドブルムのレディーの為に、一曲演奏してくれればいいんだ。俺がおまえのストリートデビュー、見届けてやるよ」
厳しい王の表情に戻ったパックの目だけが、悪戯っぽく笑っている。
「……うん」
やや緊張した面持ちでパックから鳩笛を受け取ると、リートは優雅にお辞儀をした。
そして――幼いながらもしっかりとした音運びで、柔らかな笛の音が鳴り響く。
「へぇ、リートの奴なかなか大したもんじゃないか。タンタラスの音楽団にでも入って練習を積めば、マジでいい線行くかもな」
「だろう? あいつ、俺よりも楽の才があるみたいだからな」
「しっ! 2人とも静かにしててよ!」
エーコに鋭くたしなめられ、ジタンとパックがうへぇと軽く肩をすくめてる間も、リートは真剣な表情で演奏を続けている。
“君の小鳥になりたい”のテーマ曲と並んで有名な、コーネリアが月夜にマーカスへの想いを切々と語るシーンに使われる、甘く切ない夜想曲の調べがリンドブルムの夜の街角に流れる。
演奏を終え、ぺこんとお辞儀をするリートに惜しみない拍手が与えられ、小さな少年は頬を上気させながら、ぱあっと満足げな笑みを浮かべた。
「とっても素敵な演奏だったわ」
そう言ってエーコがリートの頬にキスをすると、リートは耳の先まで真っ赤になる。そんな息子の姿に、パックも実に嬉しそうに笑う。
「ところでエーコ、おまえ何でここに?」
ジタンが訊ねると、ふふんとエーコが胸を反らす。
「ブルメシアの王妃様から、お父様にお手紙が届いたのよ。
パックとリートがお忍びでそっちに行くから、よっぽどの事がない限り知らんぷりしてやって欲しいってね。
でもリンドブルムに来ておきながら、このあたしに一言の挨拶もなしに行っちゃうなんて、許せないわ。 だからモーグリ達に頼んで、パックを探してもらったの。…まさかこんな所で大道芸やってるなんて思わなかったけどね」
「チッ。妃の奴、余計な事を」
この分だとアレクサンドリアにも、同様の手紙が届いているに違いない。
「なーに言ってんの! あんたの身分がどうであれ、折角リンドブルムに来てくれたお友達を、あたしが何のおもてなしも出来ないなんて、そんなのないわ! お母様だって残念がってたわよ。丁寧なご挨拶のお手紙を下さった王妃様に、感謝しなさいよね」
「……おう」
エーコの剣幕に押されて、パックは気のない返事をする。
「たく、そんな生返事だけじゃなくて――そうね、後でガーネットの誕生日に王妃様も来るんでしょ? 王妃様にお土産でも買ってってあげたら? 何だったらあたしが選ぶの手伝ってあげてもいいわよ」
その一言で明日はリンドブルム中を、王妃とエーコの為の買い物に引っ張り回される事決定と相成り、パックはげんなりと肩を落とした。
ニヤニヤと笑ってるジタンは、タンタラスの劇の練習があって本当に良かった〜と、内心ほっと胸を撫で下ろしている。でなければ、彼もまたガーネットへの誕生日プレゼントの買い物と称して、エーコに付き合わされていただろう。
ま、酒でも呑んで元気出そうぜ、とジタンがポンポンとパックの肩を叩く。

劇場街のエアキャブ乗り場に向かいながら、天下無敵の公女様はパックの腕を取って、自分をエスコートさせながら「フライヤやフラットレイさんは元気? 王妃様は?」などと矢継ぎ早に話しかけている。
そんな父王とエーコの後ろを何となく少し離れて、ジタンに手を引かれて歩きながら、リートが尻尾の青年を見上げた。
「あのね、ジタンおじちゃんに、父上に内緒のお願いがあるんだけど聞いてくれる?」
パックに良く似た悪戯っぽい瞳が、クルクルと輝いている。
「言ってみな」
「ジタンおじちゃんは元盗賊だから、どんな扉や宝箱でも開けられるんだよね?
だから僕にもドアの鍵開けを教えて欲しいの。そうすれば書庫に閉じこめられても、いつでも脱走出来るし♪」
あはは、とジタンは思い切り破顔した。
「悪戯すると、おしおきで書庫に閉じこめられるんだ?」
「うん、そう。トゥエラっていう教育係の学士がいて、いっぱいいっぱい勉強させられるんだもん!」
リートがぷうっと、ふくれ顔になる。
この小さな世継ぎの君は、悪戯の技ではパック顔負けという噂は、アレクサンドリアの王宮にも届いている。
「いいとも。ただし俺が鍵開けを教えた事は絶対に誰にも内緒だぞ。俺とおまえ2人だけの秘密にしておくんだ、いいな?
でないと書庫に閉じこめられるより、もっとキツイおしおき喰らう事になりかねんからな」
「うん!」
ブルメシアの未来の国王陛下の何とも頼もしき事よ、とジタンは心の中で声を立てて笑った。


そして翌日、パックがエーコのお供をしている間タンタラス団に預けられる事となったリートは、バクーの鶴の一声でガーネットの誕生祝いの劇に急遽出演が決まった。
1シーンだけ登場するたった3言の台詞の端役だが、リンドブルムを離れてアレクサンドリアに向かう旅の途中でも、リートはパックを相手に懸命に稽古を続けた。
そしてガーネットの誕生日の当日、リートはアレクサンドリアで待っていた母の王妃や、父王の前で、晴れの大舞台で立派に役をこなしてみせた。
カーテンコールでリートはジタンの子供達と手を繋いで舞台に登場し、割れんばかりの拍手を聞きながら、実に誇らしげに顔を輝かせている。
「どうだリート。街角の大道芸人もいいけど、舞台もなかなかのもんだろ?」
ジタンがニカッと笑う。
「うん。最初はドキドキしたけど、すっごく面白かった! でもジタンおじちゃんには、やっぱりかなわないや」
「そりゃそうさ。おまえの親父が国王陛下やってるように、俺はプロの役者だからな。リートがそうしたいなら、いつでも稽古つけてやるよ。アレクサンドリア大公なんてやってても、結構演技の勉強が役に立ったりするし、鍵開け同様覚えて損はないぞ?」
「うん!」
リートが幼い瞳をキラキラと輝かせて、元気良くうなずく。
父王パックとの生まれて初めての旅で、リンドブルムの街角で奏した鳩笛と、この劇場艇の大舞台を踏んだ事は、リートの忘れ得ぬ思い出の1つとなった。
そして―――


「王子、そろそろブルメシア史の第1巻は読み終えましたか?」
リート王子専属学士のトゥエラが、悪戯の罰としてリートが放り込まれた書庫へと戻って来た。
目の前でじっと見張られていては書物に集中できないと王子が言い張った為、彼女は席を外していたのだが、しっかりと鍵をかけた筈の書庫の扉が何故か開いているのに気付き、トゥエラは慌てて書庫の中に飛び込む。
案の定、そこはもぬけの空だった。
「王子〜! どちらにおられるのですか〜!」
かくて駆り出された竜騎士達がリートの姿を求めて、王宮中を探し回るいつもの光景が展開される。
まんまと出し抜かれたトゥエラは、申し訳なさそうに国王と王妃に報告する。
旅から帰ってからというもの、とんずらのレベルが格段にアップしたリートに、王妃はこんな事なら旅などさせるのではなかったと嘆くが、パックはその理由に心当たりがあるのかニヤリと笑っただけで、問題ないと手を振ってトゥエラをあっさり下がらせた。
「そう泣くなよ。侍従の誰かに命じて、書庫の扉の外側に丈夫な閂でも付ければ済む事だ。
あいつが脱走の天才のこの俺を越えるには、あと10年以上はたっぷりかかるさ、な?」
パックは威張れない事を得意げに語って、嘆く王妃を宥める。
―――ま、ブルメシアとアレクサンドリアの平和の為にも、事の真相は黙ってないとな。
リートのお願いなのか、はたまたジタンのお節介かまでは判らぬが、息子の為にアレクサンドリア大公殿がブルメシア最強の竜騎士2人に容赦なくタコ殴りにされては、あまりに気の毒というもの。
親の知らぬ所でしっかり成長しているリートに、王位を退いて再び旅に出るという夢が叶う日が案外早く来るかも知れぬと、目を細めてほくそ笑むパックだった。


王宮で騒ぎが起きている頃、リートは青の王都の城壁の外にある丘の上にいた。
2本の大樹の木陰で、たまたま先にそこへ訪れていたクレセント家の長女ラスティに、自分の武勇伝を得意げに語って聞かせる。
隠し持った針金で書庫のドアを開けて脱走して来たというリートに、唖然とするラスティの諫める言葉もどこ吹く風。
ブルメシア王国第一王子リート殿下、御年2歳と半分。彼は今日もお気に入りのラスティの膝枕で、心地良さげに午後の惰眠を貪るのであった。


−FIN−




このお話は、矢神勇希さんからいただいた「今宵月夜の奇想曲」のリク返しに書いたものです。当時仕事か何かでバタバタしていて、アップする機会をすっかり失ったままになっていた物ですが、私的にお気に入りの作品だったので、データを掘り起こしてみました。
設定は矢神さんの物をお借りしています。

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