〜 始まりの物語 〜






これはまだ、世界を救い、ブルメシア再興に多大なる貢献を果たした、紅と蒼の竜騎士のサーガが、人々の間に広く語り継がれる前の物語である。




竜騎士フライヤ・クレセント、参上仕りました。
私にご用とは、何でございましょう? 風の大巫女様」
その日の訓練を終えた所で、宮中の大神殿からの呼び出しを受けたフライヤが、神殿の女主人の前で優雅に片膝をついて跪く。
今年、正式な竜騎士の称号を得たばかり、未だ少女のあどけなさをわずかに残すフライヤの、見事な騎士ぶりに、先王の異母妹である風の大巫女が目を細めて微笑む。
「今日はそなたに、来月行われる一陽来復(冬至)の祭りについて、ちと頼み事があっての。
そのように畏まられては話しづらい故、楽にされるが良い」
「はい」
許しを得て、フライヤがスッと立ち上がる。
一陽来復の祭りとは、日輪の神と豊穣の女神の復活を祝う、ブルメシアの古き祭りである。
夏至に行われる月の祭りは、静かに粛々と行われるが、この一陽来復の祭りは、長い冬が終わり、やがて訪れる春を待ち望む民の思いを表すように、実に華やかに繰り広げられる。人々は大いに飲み、食べ、夜通し踊り明かすのだ。
「頼み事というのは他でもない。そなたとフラットレイ殿に、日輪の神と豊穣の女神の舞を舞って欲しいのじゃ。これは国王陛下のご意向でもありまする」
風の大巫女が、にっこりと笑顔をフライヤに向ける。
―――よ、選りにも選って、一陽来復の豊穣の舞じゃと〜〜! あ、あれは豊穣の女神が、日輪の神を誘惑する舞ではないかッ!!
今年14歳になったばかりの純情可憐な乙女にとって、たとえ祭りの奉納舞とはいえ、心ひそかに想いを寄せている竜騎士を、大勢の衆目の前でタラす真似をするなど、出来よう筈もない。
しかもその舞は、ずっと昔に頭の固いお偉方が『教育上宜しくない』という理由で、10歳以下の子供は、伝統の祭りのクライマックスに踊られる舞の桟敷席に立ち入る事を許されぬという、奉納舞としては異例の艶かしい踊りである。
「お言葉ではありますが、大巫女様! 我らは一介の竜騎士。祭りの最も大切な舞を舞うに相応しい、巫女や神官の方々が大勢おられるではありませぬか?!」
羞恥と困惑の表情で必死に抗弁するフライヤに対し、大巫女殿は実に涼しい顔でこう言った。
「陛下のご意向と申したのが、聞こえなんだかえ? 我がブルメシアが同じ血を引くクレイラの者から、“武門の国ゆえ、古き伝統を守るクレイラよりも、舞の持つ魔力が劣る”などと、侮られるのも口惜しいからの。
今年は数十年ぶりに女竜騎士殿が誕生した事でもあるし、ぜひブルメシアの誇る若き竜騎士2人に豊穣の舞を所望するとの、陛下のたっての仰せじゃ」
「…………」
ぐっと押し黙ったまま、それでも恨みがましい目で大巫女を見つめるフライヤに、大巫女は最後のダメ押しを与える。
「クレセント家の祖は、竜の戦士であった偉大なるブルメシア女王と、その娘たる月の巫女姫じゃ。王家の歴史に、舞の名手としても名高いお2人の血を引くそなたが、よもや踊れぬとは言いますまいな?
ブルメシア王家始祖であり、伝説に残る“黄金の鼠人(ねずみびと)”の子孫であられる女王陛下と同じ、そなたの色違いの尻尾。それが、そなたがお2人の血を色濃く引いておる、何よりの証拠じゃ。もしそなたが断れば、偉大なるご先祖の、しいてはブルメシア王家の名を汚す事にもなりかねませぬぞ」
風の大巫女は意地の悪い顔で、さらりと言ってのける。
かつて第12次リンドブルム戦役を、槍を手に持ち、常に戦の先陣に立って戦い抜いた、偉大なるブルメシア女王がいた。
その愛娘で“風よりも軽やかに踊る”と謳われた舞の名手である月の巫女姫が、若き竜騎士と恋に落ち、女王の許しを得て現在のクレセント家の礎を築いたという。
竜騎士見習い時代に、女だてらに槍を振り回しても“白き女王竜”には決してなれぬと、冷たい嘲笑に常に比された祖先の名まで持ち出されては、フライヤに断る術はない。
一陽来復の祭りで舞を踊るのはかまわない。ただし相手が、あの方でなければ…。
「そなた、まだ不服そうじゃの?」
「…いえ。陛下のご命令とあれば是非もない事。ですが1つだけお聞かせ願えますか?
フラットレイ様におかれましては、この件ご承知の事なのでしょうか?」
フライヤの問いかけに、風の大巫女は破顔した。
「そなたがそう言うと思うてな、フラットレイ殿には既に承知いただいておる。
舞は私がお教えします故、訓練の後、毎日神殿にお越し下されますよう、フラットレイ殿にもお伝え願えますかの?」
これでフライヤの退路は全て断ち切られた。
フライヤは承知いたしました、と頭を垂れると、重い足取りで神殿を後にした。



とぼとぼとフライヤが王宮内を歩いていると、ちょうど王の間を辞して来たフラットレイと、ばったり出くわした。
「や、やぁフライヤ。祭りの話は、もう聞いたかい?」
「はい。たった今し方…」
いつもと違い、2人の間に何となく、ぎこちない空気が漂う。
「その…フラットレイ様は、此度の件、本当に心からご承諾いただいているのでしょうか?」
―――自分が相手で、本当に良いのだろうか?
秘めたる想いを告げる事さえ出来ずにいる彼の人に、胸の鼓動を押さえつつ、思い切って問いかける。
「…風の大巫女殿に、無理矢理押し切られてしまった。陛下にも先程、念を押されたばかりだ。断りたくても、断れる話ではなかろう?」
そう言ってフラットレイは溜息をつく。
「クレセント家令嬢の君は、幼い頃から舞の手ほどきを受けて、今まで何度も祭りの時に神殿で舞っているから慣れているだろうが、私は槍の扱いはともかく、奉納舞などただの1度も触れた事もないのに、いきなり祭りの主役だ。気が重くて仕方ない。…唯一の救いは、君が相手役という事だな」
フラットレイの言葉に、フライヤの顔がパッと明るくなる。
「ほら、祭りの豊穣の舞は、剣舞と槍舞だろ? 君が相手なら私も安心して槍を振り回せるし、もし万一私がドジを踏んだとしても、君なら確実にフォローしてくれるだろうからね」
乙女心を踏みにじる発言に、フライヤは彼を思い切りどついてやろうかと思った。
で、実際そうしてしまった。
「最強の竜騎士ともあろうお方が、槍を扱うのに失敗する筈などございませぬ!
巫女様方と違い、女らしゅうのうて悪うございましたわね!!」
乙女の怒りの鉄拳を、おそらくは大巫女と陛下への分までまともにくらい、フラットレイは小さくうめいた。
ぷりぷりと怒気を振りまきながら去っていく、細い背中を見送りながらフラットレイはつぶやく。
「やれやれ。舞を引き受けた本当の理由など、君に言える訳ないだろうが…」
風の大巫女から話を聞かされた時、フラットレイは即座に断りを入れた。
その時大巫女は、こう言ったのだ。
『今年の豊穣の女神を舞うのは、ブルメシア唯一の女竜騎士であるフライヤ殿以外、考えられませぬ。奉納舞の経験のないそなたが、断ると申されるのであれば、それも結構。
この件、他の竜騎士殿にお願いするしかないが、いかがかの?』
フライヤが、神殿で他の男を誘惑する舞を舞う。
そう考えただけで、フラットレイの頭は沸騰した。
『やります! ぜひ私にその役、やらせて下さい!!』
気が付くと彼は、そう叫んでいた。
にっこり笑う大巫女の笑顔に、自分が罠にはまった事に気付く。
いつの頃からだろう、自分を尊敬と憧れの眼差しで見上げて来る幼い少女が、成長するにつれてその身の内から竜の輝きを凛と放つと同時に、つぼみが次第に花開いて美しい大輪の華を咲かせて行く。そんなまばゆい姿に心魅かれるようになったのは。
だがその想いを、フライヤは知る由もない。
彼女の美しいエメラルドの瞳に映っているのは、“最強の竜騎士”フラットレイ・ハイウインドなのだから。
おまけに、己の胸の内を伝えるには、彼女はまだ幼い。
「やっぱり気が重いな…」
祭りの上とはいえ、彼女に誘惑されるのは、男として嬉しくない筈はないのであるが…。
フラットレイは、何度目かの重苦しい溜息をついた。




「ふむ…どうもいまいちじゃの」
フラットレイとフライヤ、2人の舞を指導する風の大巫女が、溜息混じりに肩を落とす。
祭りは明日だというのに、フラットレイもフライヤも互いを意識し過ぎて、ひどくぎこちない舞しか出来ないのだ。
「ほんと、らしくないよな」
突然下の方から聞こえた声に、大巫女が驚いて横を振り向く。そこには幼い王太子パックが、難しい顔をして神殿の舞台をじっと見つめている。
…それにしても、いつの間に神殿に潜り込んだのか。
「殿下。幼き方は、神殿は立ち入り禁止になっておりますが」
大巫女が苦笑しながら片膝をついて、無駄と知りつつパックを諫める。
「わかっておる。どうせ祭りの当日は入れてもらえぬのだから、練習ぐらい見せてもらってもいいじゃないか」
やがて楽の音が止み、舞が終わった。
フライヤがパックに気付いて、こちらへとやって来たが、今の舞に納得できないフラットレイは1人舞台に残り、黙々と練習を再開している。無論パックの姿も目に入っていない。
フライヤとフラットレイの間には、会話の1つさえない。
互いに、思うように舞えぬ自分自身に、相当苛立っているのが傍目にも判る。
タタタと身軽にフライヤに走り寄るパックは、いつものようにフライヤに飛びつく代わりに、彼女の手から練習用の木剣をさっと奪った。
「ちょっと借りるぞ!」
小声で囁くと、そのまま音もなく、舞に没頭しているフラットレイの背後に忍び寄る。思い切り剣を振りかぶって、フラットレイに向けて振り下ろす!
剣は難なく、フラットレイの槍に受け止められた。
「王子、いくら背後から襲って来られようと、気配を殺す訓練の方がまだまだですぞ!」
余裕の笑みを見せる竜騎士に、パックは何度も果敢に立ち向かって行く。
「フラットレイ様、何だか楽しそうじゃのう…」
先程までとうって変わって、生き生きと槍を振り回すフラットレイの姿に、やはり舞の相手役が自分であるのが気に入らなかったのだろうかと、フライヤがつぶやく。
「うわっ! いてて…」
勢いよく助走を付けて向かっていった剣を、フラットレイの槍に防がれて、パックが反動で尻餅をつく。
「勝負ありましたな、王子」
「降参するのはまだまだだ。
フライヤ! 俺の代わりに、フラットレイを倒してくれ!」
ぽーんと剣をフライヤに投げ渡す。
「…………」
剣を受け取ったフライヤはしばらくそれを見つめていたが、ふいに艶やかな笑みを浮かべると、右手で巫女の衣装の裾をたくし上げて、ひらりと舞台に駆け上がる。
「パック王子。剣で槍との間合いを取るのは、難しゅうございます。どうぞフライヤの剣技、良くご覧になって下さいませ!」
代々名高き武人を数多く排出して来た名門、クレセント家の跡継ぎとして、フライヤは父から一通りの武芸を物心つく前から仕込まれている。
幼い時より身体に叩き込まれた、各種武器の特徴、その間合いの取り方などが、現在の竜騎士フライヤ・クレセントにとって、どんなに有形無形の力を与えていることか、計り知れない。
フライヤの宣言に、フラットレイも実に楽しげに、口元に笑みを浮かべる。
「参ります」
言うが、彼女はあっという間に、フラットレイの懐に飛び込んでいた。
“紅の閃光”と異名を取る刹那の素早い攻撃に、流石のフラットレイも剣を受け流す事が出来ずに、とっさに後ろに飛び退く。
たちまち激しい戦いになった。
「し、神聖なる神殿で、何事であるか!」
ふるふると肩を振るわせる神官の1人に向かって、事態を明らかに面白がっている大巫女が、こう諫める。
「まぁ宜しいではありませぬか。あの2人、実に楽しそうな顔をしておる」
神殿の長老達は揃って渋い顔を見せているが、年若い巫女や神官、神殿付の楽師などは、皆思い思いに贔屓の竜騎士に声援を送っている。
大巫女は隣に立つ小さな王子に向かって、声を掛ける。
「お手柄でしたな、殿下」
「別に。俺はただ、気に入りの遊び相手が2人揃っておらぬから、退屈していただけだ」
大好きな2人がつまらなそうな顔をして、互いにひどくよそよそしい雰囲気が漂っていれば、パックでさえ気になるではないか。そんな王子に、大巫女は美しい瑠璃色の瞳を和ませた。
一方、舞台の剣と槍のぶつかり合いは、意外にもフラットレイが苦戦していた。
フラットレイの槍を左で受けるフライヤは、彼の感覚でわずかに一瞬、他の者よりも早く槍の斬撃を受け止める。
そして今、剣を握るフライヤは、槍の広い間合いに抗する為、己の得意とするタイミングより更に一歩先んじて、フラットレイの懐に飛び込んで来る。
最強の竜騎士同士の戦いにおいて、この2瞬の差はとてつもなく大きい。ましてや“紅の閃光”と呼ばれる、恐るべきスピードを誇る相手では。
万一間合いの内に入られたとしても、フラットレイはそれに応じる術をいくらでも持ち合わせているのだが、互いに防具を一切纏わぬ寸止めルールでは、やれる事は自ずと限られて来る。
目にも止まらぬ軌跡を描く槍先の、弧の内側にフライヤが飛び込む。フラットレイは即座に手首を返して、槍の石突で彼女が握る剣の柄元を狙う。
身体を横に捻って紙一重で攻撃をかわしたフライヤは、そのまま横様にフラットレイの側面に向けて剣撃を放つ。
たまらずフラットレイが、ジャンプで窮地を脱する。
普段の訓練であるなら変幻自在の槍術に、とうに阻まれているか、下手をすれば返り討ちにあっている所だが、互いの身体に直接攻撃を加えられぬ、というルールをきっちりと計算に入れて、フライヤは終止大胆な攻撃を仕掛けて来る。
むろんその大胆さは、閃光と呼ばれる、彼女の鮮やかなまでに正確無比な素早い攻撃と、何よりフラットレイの槍術に対する絶対的な信頼に、裏打ちされてのものである。
フラットレイに続いて、フライヤが宙に舞う。
「はっ!」
剣に気を込め、フラットレイの飛翔の頂点――重力が0になる瞬間を狙い澄まして放つ。
相手を傷つける程の能力はないが、まともにくらえば思わぬ方向に弾き飛ばされかねない気の塊を、フラットレイもまた槍に己の気を集中させ、はね返す。
落下の勢いを加えて振り下ろされるフラットレイの槍を、フライヤの剣が受け止める。
じん、と両の腕が痺れる、ひどく重い一撃。
そのまま2人は空中で睨み合いながら、もつれるように地上へと落下した。
互いに着地した瞬間、攻撃を繰り出す。
一合、二合、三合。
2人の竜騎士の力は、全くの互角。
―――さすが!
相手の力量への賞賛に、フラットレイもフライヤも思わずその顔に、不敵な笑みがこぼれる。
このままでは埒があかないと、同じタイミングで後方に飛び、再び間合いを取って仕切り直しを図る。
「そこまで!」
風の大巫女の声が、凛と神殿内に響き渡った。
息を詰めて戦いを見守っていた見物人達の口から、ほぅと一斉に感嘆の溜息が漏れる。
「フラットレイ殿、それから殿方は全員、後ろを向いて下さらぬか?」
「え? ――きゃあっ!!」
大巫女の言葉に己が姿を省みたフライヤが、胸の前を腕で隠して悲鳴を上げる。
いかに直接攻撃は一切なしとはいえ、風をも切り裂くと言われた互いの斬撃を、相手の身体に触れる直前で止めるのだ。剣圧から生じる衝撃波で、薄い衣はあちらこちらが切り裂かれ、ボロボロになっていた。フラットレイも言われてから、フライヤが晒すあられもない姿にようやく気づき、あわてて後ろを向いた。
つい先程まで真剣勝負を繰り広げていた2人の竜騎士の顔は、見事なまでに赤く染まっている。
大巫女は己のマントをフライヤの肩に掛けてやり、ついでに裂傷の治療魔法を唱えると、腰に手をやり、大袈裟に溜息をつく。
「やれ、お2人とも。神々の持つ剣と槍は、武器にして武器に非ず。いくらお2人の手にしたそれが、練習用のものであろうともじゃ」
「申し訳ありません」
竜騎士達は声をそろえて、頭を下げる。
「…まぁこの婆も、久方ぶりに楽しませてもらいましたしの。今日のところは大目に見て差し上げる事に致しましょう」
そう言いながら苦笑する大巫女は、最初から怒る気もないようだ。
ほっとしたフライヤが、突然クスクスと笑い声を立て始める。
「フライヤ?」
「フライヤ殿?」
「…だって…クスクス…。フラットレイ様の格好ときたら、私以上にボロボロなんですもの…!」
箸が転んでもおかしい年頃の少女は、クスクスと笑い続ける。
本当は舞の稽古の間中、どこかよそよそしかったフラットレイが、全くいつものようにフライヤに接してくれた事が、とても嬉しい。
「…確かにの。これでは日輪の神に恋した女神と言えど、百年の恋も冷めてしまいそうじゃの」
「はぁ…」
フラットレイが困ったような表情で、気のない返事をする。
「…でも今日の勝負、私が勝ちという良い証拠になりますね、フラットレイ様?」
「うん、今回は私の負けだ。お転婆な女神殿」
フラットレイは笑顔で、あっさりと己の敗北を認めた。
フライヤは誇らしげな笑顔を浮かべると、パックに向かって片膝をつく。
「高い所から失礼致します、パック王子。ご命令通り、フラットレイ様を討ち取りましてございます」
「見事だったぞ、フライヤ。今度フラットレイの槍に勝つ方法、俺にも伝授してくれるか?」
「王子のお望みとあれば、いつなりと」
フライヤの言葉に、いつも槍の稽古でフラットレイに打ち負かされてるパックが、やった!と嬉しそうに指をパチンと鳴らす。
「さて、お2人とも。今日の稽古はもう結構ですから、着替えて街へ祭り見物にでも行かれては?
お若いお2人の事、潔斎の為に3日も神殿に籠もりきりでは、かように息も詰まりましょう」
「えっ?! 宜しいのですか?」
弾む心を押し隠すように、フラットレイが神妙な面持ちで訊ねる。
「無論街へ行かれた後は、俗世の穢れを清める為、うんと冷たい禊の清水を用意してお待ちしておりまする」
茶目っ気たっぷりの大巫女の言葉に、きゃ〜あとフライヤの楽しげな悲鳴が上がる。
「俺も俺も!」
「いいえ、殿下におかれましては、折角神殿においで下されたのですから、一陽来復の祭りの祈祷文などお教えしましょう」
「え〜〜!」
こちらは思い切り不満そうなパックの声に、神殿に一斉に笑い声が響いた。



巫女と神官の簡素な略装の上に厚手のマントを羽織り、フライヤとフラットレイは街へと繰り出して行った。青の王都の正門から城まで続く目抜き通りは、特に屋台の出店が数多く並び、祭り気分にそぞろ歩く人々で非常に賑わっている。
「どうぞ、レディ」
フラットレイが竜騎士らしく、フライヤに左腕を差し出した。フライヤも名門クレセント家の令嬢として、はにかみつつ青年の腕に己の右腕を絡める。
「さぁさぁ見てっておくれ! 珍しいアクセサリーだよ!」
「リンドブルム名物、ギザールの野菜のピクルスはいらんかね!」
様々な掛け声が飛び交う中、山と積まれた果物や、食べ物の良い匂いもそこかしこから漂って来る。
「あっ! フラットレイ様、ちょっと宜しいですか?」
フライヤが示した屋台の店先には、色とりどりのキャンディーが並び、小銭を握りしめた子供達がお宝の山を前に、目を輝かせている。
「パック王子のお土産にしようかと思いまして」
「うん。私達が出かける時、ずいぶんとご機嫌ななめだったから、祭りの気分だけでもお届けすれば、きっと喜んで下さるだろう」
フライヤは早速、子供達の中に混じってキャンディーの品定めを始める。…どうやら王子へのお土産だけでなく、自分の分も選んでいるようだ。青年は少し離れて、フライヤの買い物を微笑ましく眺めている。
「フラットレイ様は、どれがお好みですか?」
「え、私? そうだな、あまり甘い物は好きじゃないから、ハッカ入りのがいいな」
うなずいて店番に何事か言っていたフライヤがようやく戻って来る。
「フラットレイ様」
ん?とフライヤを見返すフラットレイの鼻先に、ハッカキャンディーが突き出される。そのままキャンディーを口の中に放り込まれた。
「ん〜(あ、甘いι)」
「うふふッ♪」
悪戯っぽく笑うフライヤも、同じようにキャンディーを口に頬張る。フライヤの笑顔につられて、フラットレイも思わず笑みを浮かべた。
あちらこちらと店をひやかしながら、2人は街の広場の1つまでやって来た。哀愁を帯びた手回しオルガンやバイオリンの音が鳴り響き、色とりどりの風船が風に揺れている。
広場のそこかしこでは、大道芸人の周囲に黒山の人だかり。
その混雑の中を、フラットレイは訓練された者ならではの目で、人の流れと動きを読んで、フライヤをさりげなく人混みから護りつつ、すいすいと小気味良く進んでいく。
ぴったりとフラットレイに寄り添いながら、まっすぐ前を見つめる青年の横顔を、フライヤは頬を淡く染めながらずっと見上げている。
「お兄さん。別嬪の恋人に花はいらんかね?」
通りかかった花屋の店先で、そう声を掛けられた。
―――こ、恋人?!
「そうだね、もらおうか」
にっこりと笑顔で応じるフラットレイは、パニックに陥っているフライヤの心中を果たして理解しているのかどうか。
「どの花がいいかな?」
「あ…では、その赤い花を髪飾りに。この人混みの中を持ち歩いたりしたら、花がかわいそうですもの」
花屋の店主は心得顔で、花をまとめて髪飾りを作ってくれた。
「どうぞ、兄さん。あんたの手で、恋人の髪に挿してやりなよ」
「う、うむ」
フラットレイは慣れない手つきで、なんとかフライヤの髪に花飾りをつけてやった。
フライヤの白銀の髪に、赤い花が美しく映えている。
「ほう、別嬪さんがますます美人になったな」
店主の誉め言葉に、フライヤは頬を赤らめたまま、少し不安げな目つきでフラットレイを見上げた。
「とても良く似合っている」
その言葉に、フライヤの顔がぱぁっと輝きを増す。
再びフラットレイにエスコートされて歩き始めたフライヤが、ふふっと小さな声を立てた。
「…良かった。舞の稽古の間中、フラットレイ様は難しい顔をしておられるから、フラットレイ様は私がお嫌いなのか、そうでなければ…その…誰か心に想っておられる方がいらっしゃるのではないかと、胸が潰れる思いでした」
「――――!」
日輪の神を誘惑する、豊穣の女神の舞。
彼を誘う白い腕に、その表情に、心ざわつく自分を悟られまいと、殊更仏頂面の仮面を被って接してきた報いが、フライヤの悲しみとなって、フラットレイに針より鋭く突き刺さる。
「…すまなかった」
自分は竜騎士なのだからと、あくまでもストイックに振る舞って来た事が、フライヤを傷つけていたとは。
それこそ、最も騎士の道から外れた事ではないか?
「明日はいよいよ、祭りの当日だ。先程みたいに神殿の舞台の上ではなく、闘技場に立ってるとでも思えばきっと上手くいく。
互いに竜騎士として、選ばれた此度の使命、見事果たして見せようではないか」
せめて懸命に舞うフライヤの為に、日輪の神、見事演じ切って見せよう。
「まぁ、ひどい。フラットレイ様は、私が武器を振り回す事しか能がないと、思うておられるのでは?」
「まさか。君の舞は、神殿の誰が舞うよりも綺麗だ。…本物の日輪の神も恋に落ちる程に」
「―――え?」
それはどういう意味なのかとフライヤが問う前に、そろそろ城に戻ろうとフラットレイが腕を軽く引いてうながす。
結局フラットレイの本心を何1つ聞けぬまま、フライヤの震える心を示すように、白銀の髪の赤い花が、冬の冷たい風に揺れていた。




白い月が、東方に高く聳えるアープス山脈の頂より夜空に昇る頃、一陽来復の祭りの儀式が、王宮の大神殿にて始まった。
舞台の桟敷席には王を筆頭として、宮中の高官や諸侯貴族が並び、その中にクレセント家の当主とその妻の姿も当然ながら混じっている。
今宵ばかりは無礼講として城門が開放され、一般市民達も城で振る舞われる御神酒を心ゆくまで楽しみ、神殿に詰めかける大勢の見物人で、城中が祭りの熱気と興奮に包まれている。
パック王子も神殿を見張る竜騎士達の目を盗んで、こっそり忍び込んだ所を風の大巫女に捕らえられ、今は神殿の隅に立って儀式を見守る大巫女のマントの下に隠れるようにして、舞台を見つめている。
王による祭りの祈祷に続き、巫女と神官、そして国中から選ばれた乙女達の、様々な舞が神殿に奉納される。
そして月が中空に差し掛かる頃、いよいよ儀式の最後を飾る、祭りで最も重要な位置を占める豊穣の舞が始まった。
荘厳な楽の音に合わせて、まずは黒いベールを頭に被った巫女達が舞台に登場する。巫女達は手にした黒いベールを自在に操り、冬と闇の舞を舞う。
やがてポーン、と琴の音を最後に楽が途切れ、しんと息詰まる静寂の中、黄金の剣を手にした豊穣の女神が、おもむろに舞台の中央に現れた。
フライヤの髪には昨日フラットレイから貰った赤い花が、大巫女の魔法で止めた瑞々しい姿で飾られている。
先程までとはうって変わった典雅な楽の音で、フライヤが舞い始めると、冬と夜の巫女達は一斉に舞台を去って行く。
タタン、タ、タン、タ、ターン、タ、タタタ―――
軽やかに踏まれるリズムを楽の音が追従し、全てのリズム、全ての音階が絡まり合い、複雑な韻を踏んで、魔歌(まがうた)を形成する。
ほの暗い燈火の下で煌めく黄金の剣が、見事な舞手と一体となって放つ光の軌跡となって、魔歌の力と、春を待ちわびる人々の祈りをまとめ集めて、1つの魔法に織り上げる。
「フライヤ、すごく綺麗だ」
パックならずとも、壇上のフライヤを見つめる誰もが、春を呼ぶ女神に魅入られたように、呆然と舞台を食い入るように見ている。
そこへ登場したのが、フラットレイ演ずる日輪の神。
黄金の槍を手に、鮮やかに舞う日輪の神の凛々しい姿に、豊穣の女神は一目で恋に落ちる。
日輪の神を我が者にせんと、美しい女神は誘惑の舞を踊る。
唇に微笑をたたえ、白い腕をフラットレイの鍛え抜かれた身体に絡める。
戸惑う神の青年・フラットレイがその腕を捕らえようとすると、フライヤの身体はするりと離れて、蠱惑的な眼差しで切なげに彼を見つめて来る。
思わず近づくフラットレイは、今度はフライヤの手を丁重に取り、2人の踏むステップが新たな魔法を生み出す。
恋という名の魔法を―――
しなやかな白い指がフラットレイの頬を滑り落ち、陶然と美しい顔(かんばせ)を見つめていた彼は、女神に口づけしようと唇をそっと近付ける。
だが唇が触れる直前で、彼は突然、白い腕に冷たく突き放された。
フラットレイの腕の中からするりと抜け出し、舞台の上を滑るようなステップで、フライヤは舞台の下手へと逃げて行く。
ふと足を止め、フライヤは黄金の剣を掲げ、妖艶な微笑みを浮かべてフラットレイを振り返った。
美しいポーズを取るフライヤの、うなじから背中にかけて、きゅっと捻った細腰からつま先に至るまで、絶妙なラインが描かれる。
一瞬の美をフラットレイの目に艶やかに焼き付けて、フライヤは胡蝶のように身を翻し、彼の手の届かぬ所へと去ってしまった。
今や完全に女神への恋の虜になってしまった日輪の神は、焦がれる想いを、先に女神が踏んだ舞を、繰り返し踏む事で表現する。
槍を振り回しながら躍動的で力強い舞を踊るフラットレイの、無駄1つなく鍛え抜かれた身体は、豊穣の女神が一目で恋に落ちたように、人の持つ究極の美の1つを体現していた。
ほぅと人々の口から感嘆の声が漏れる中、舞台上で舞うフラットレイの視線の先に、常にいるのはただ1人、彼の女神―――。
魔歌が彼の四肢に絡みつき、狂おしい想いは思考さえも奪って行く。
フラットレイが演じているのは、女神に恋した青年神か、それとも己自身の心なのか――それすらもう判らない。
黄金の槍を舞台に垂直に立て、彼は切ない想いを掻き抱くように、両腕を胸の前で交差させ、この想いは最早届かぬのかと深く頭を垂れてうなだれる。
永遠とも思える舞台の静寂を破るように、楽の音が変わり、フライヤが巫女の薄衣を揺らしながらフラットレイに近づき、穏やかな笑みを浮かべて彼を背後から愛おしげに抱きしめる。
今度こそ逃さぬよう、細い腕をしっかりと押さえながら、フラットレイがそっとフライヤを抱き寄せる。
手に手を取って喜びの舞を踏み、2人は最後に黄金の剣と槍を、天に向かって高々と掲げた―――



最後の楽の音の余韻が消えると、一斉にどよめきと、拍手が鳴り響く。
幼いパックなどは、顔を赤らめたまま、ぼーっと半分固まってしまっている。
「2人とも見事な舞でしたわね、あなた」
クレセント夫人がそう言って、夫に誇らしげな笑顔を向ける。
「うむ…何と言うか、こう…複雑な気分じゃのう」
夫人と違って、クレセントはひどく不機嫌な顔をしていた。
慈しんで育てた愛娘は、いつの間にか自分の手元から去ってしまった。そんな寂寥感が、かつての最強の竜騎士に溜息を落とさせる。その表情を見て、クスと夫人が声を立てる。
「私とあなたが一陽来復の豊穣の舞を踊った時も、父上が今のあなたとそっくり同じ顔をしていましたわ。
あれからもう、20年以上経つのですね」
夫人は懐かしい思い出に目を細めると、従兄弟でもある夫のクレセントに心地良さげに寄り添った。




「フライヤはどこへ行ってしまったんだろう…」
ようやく務めから解放されたフラットレイは、神殿を辞するとフライヤの姿を探し求める。
城の中庭には天幕が幾つも張られて、その下で人々が王宮から振る舞われる酒に酔いしれている。
神殿に彼女の姿は既になく、フラットレイは喧噪の中、彼の人を求めて歩き回り、ふと思いついて王宮近衛竜騎士団専用の天幕に立ち寄ってみた。
「あ、フラットレイ様」
「フライヤ!」
既に任務を終えた竜騎士達が酒盛りを楽しんでいる中、彼女はちょっと困った顔をして、椅子にちょこんと座っている。素面のフラットレイの登場に、すっかり出来上がった酔いどれ騎士達に囲まれた14歳の少女は、実にほっとしたような笑顔を見せた。
フラットレイは彼女のテーブルに近づくと、フライヤの肩を抱きかかえるようにして彼女を席から立たせた。
「おいおい、何だよ。折角今宵の主役を囲んで、酒を楽しんでいるのに」
竜騎士達の口から、ヤジとも冷やかしともつかぬ、陽気な声が上がる。
「申し訳ありませんが、諸先輩方。彼女はこの後、私と先約がありますので。
もし異存があるとおっしゃられるでしたら、いつなりと私の槍がお相手致しますが?」
ふふん、と年若い竜騎士が、口元に不敵な笑みを浮かべる。
無論無礼講であるからこそ許される不遜な言葉なのだが、フライヤはフラットレイまでもが酒に酔っているのではないかと、ちょっぴり疑いの眼差しで彼を見た。
「何だよ〜。さっきフライヤが貴族のバカ息子共に言い寄られていたのを、助けたのは俺達なんだぜ?
ただの騎士だって、たまには女神様と一緒に酒を飲んだって、バチは当たらないだろうが?」
フラットレイと同い年の青年が、ニヤニヤと意味ありげにそう言って、わざと火に油を注ぐ。
そんな事が本当に?とフライヤを見返す竜騎士の青年に、彼女は黙ってうなずいた。
「それはフライヤが飲酒年齢に達していればの話だ。騎士として、おまえのような酔っぱらいの相手を、彼女にはさせられんな」
そう宣言すると、彼は堂々とフライヤの手を引いて、天幕を出て行く。
口笛に混じって、お熱いね〜だの、がんばれよ〜とかいう賑やかな声が、2人の背中を追いかけて来た。


「急ごうフライヤ。もうすぐ花火が始まってしまう」
フラットレイは再び大神殿の近くまでフライヤを連れて来ると、彼女を両腕に抱え、大神殿の屋根に身軽く飛び移った。
「風の大巫女殿に、ここなら誰にも邪魔されず花火見物が出来ると、教わったんだ」
フラットレイはそう言って、フライヤに笑顔を向ける。
「…あ…あの…フラットレイ様…」
「え? ―――うわっ!!」
ひどく戸惑った様子のフライヤの声を不審に思った彼は、フライヤの視線の先を振り返って、思い切り硬直してしまった。
王宮を囲む城壁の上に、やはり花火見物目的の竜騎士達が恋人を連れ、各々間隔を空けて座っている。
流石に王宮や大神殿の屋根に上るのは、いくら無礼講と言えども憚られたので、確かにフラットレイ達は誰の邪魔も入らない最も高い位置にいる事になるのだが…。
さては、権謀術数渦巻く王宮で生まれ育った風の大巫女は、巫女の衣の下に黒い尻尾が生えているという噂は真であったかッ!と、2人は同時に同じ事を考えた。
易々と謀られた己の不明に、フラットレイは溜息をつく。
深く息を吐き出したら、胸につかえていた様々なものまで、一気に消え失せてしまったようだ。
「折角だ。大巫女殿の好意に甘えて、座って花火見物をしようじゃないか。
それとも私と一緒では嫌かな?」
フライヤはふるふると首を横に振って、フラットレイの隣に腰を下ろした。
「いくら厚手のマントを羽織っているとはいえ、冬の夜風は冷たいからね。
君と花火見物しながら呑もうと思って、これを持って来たんだ」
フラットレイはマントの内側から、アルコール度数の低い果実酒とグラスを取り出した。
「ああ、それで舞の後、フラットレイ様の姿が見あたらなかったのですね」
「うん。そのせいで、君に迷惑をかけてしまったようだ。すまない」
詫びるフラットレイに、フライヤは小さく声を立てる。
「でもそのおかげで、ほんの少しだけ良い事もございました。私も…この通りに」
フライヤが取り出したのは、フラットレイの好きな銘柄の酒瓶だった。先程、天幕にいる間に持ち出して来た物だった。
互いに顔を見合わせ、ぷっと吹き出す。
クスクス笑いがようやく収まった後で、フライヤはフラットレイがいつの間にか真摯な眼差しで、自分を見つめている事に気付いた。
「フライヤ、君が好きだ」
え?と思いがけない告白に、エメラルドの瞳が丸くなる。
「君を愛している。…けれど君の年齢を考えると、自分の想いを一方的に押しつけるような気がして、竜騎士として自分の本心を明かす事は決してしてはならぬと、ずっと心に決めていた」
まだ恋と憧れの区別もつかぬ少女から、彼女が自分の考えをしっかり持った大人の女性へと成長するまで、待つつもりだった。
「けれど今日の君の舞を見た者が、これから大勢君の元へ引きも切らずやって来て、君に甘い言葉を囁くだろう。
そう思ったら急に、沈黙を続ける事に耐えられなくなった。祭りの舞手を引き受けたのも、同じ理由からだ。
身勝手な願いだが、私の想いをどうしても今、伝えておきたかったんだ」
頬を紅潮させ、胸の鼓動が暴走を始めるのを感じていた少女は、同時に怒りと悲しみに唇をきつく引き結ぶ。
「―――私がッ…私がまだ子供だから、とおっしゃられるのですかッ?
フラットレイ様は私を好きだと言いながら、私の気持ちなぞ少しも理解っておられぬ!
私がどんな想いで、フラットレイ様からいただいた花を身に付けて、神殿の前で舞ったと思うておられるのですか?!
フラットレイ様なぞ、フラットレイ様なぞ―――――!!」
祭りの最後を飾る花火が一斉に打ち上げられ、腹に響くような轟音に、フライヤの言葉はかき消された。
業を煮やした短気なフライヤは、フラットレイの肩に手を掛けると、舞では決して触れる事のなかった彼の唇に口づけた。
そうっとフライヤの白い顔(かんばせ)が離れてゆき、彼女の想いを言葉が紡ぐ。
「私もフラットレイ様を愛しております」
この上なく優しく微笑む顔がうなずいて、フライヤの細い身体ごと腕の中に抱きしめ、その想いを受け取る。
もう1度、今度はフラットレイの方から、愛しい想い人に甘美な口づけを贈った。


◆◆◆


―――ブルメシア王宮に残る記録によると、この竜の年の一陽来復の祭りに、フライヤ・クレセントとフラットレイ・ハイウインドの両名が、豊穣の舞を大神殿に奉納したとだけある。
だが紅と蒼の竜騎士のサーガには、2人がどのようにして真の一対となったのか、一切触れられてはいない。







メニューに戻る



もしもこのお話が少しでも気に入って下さいましたら、拍手ボタン←をポチっと押してやって下さい。
次回作の、何よりの励みになります。