青き祈りのかけら 4 


「フライヤ、道中気ぃ付けてな」
「何もこんなに早く旅立たなくとも、もうちょっと待ってれば探し人だって現れるだろうに」
「いや、公演が終わってもう何日も経っておるのだ。フラットレイ様が噂を耳にされているのなら、とうにリンドブルムに来ておられる筈。
それよりバクー殿の情報にあった、フラットレイ様らしき人物を早う探してみたいのじゃ」
首を横に振るフライヤは、静かに微笑む。相変わらずもの悲しい瞳をしているが、それでも…まだ希望は失ってはいない。
「お前さんがそう言うんじゃ、俺達は引き留められねぇしな。リンドブルムに寄った時は、いつでも訪ねて来るといい。こっちもまた情報集めて置くからな、ガハハ」
別れの湿っぽさを吹き飛ばすように、バクーが豪快に笑う。
「あれ、ところでジタンはどこに行ったズラ?」
「大方フライヤと別れるのが嫌で、どっかに隠れているんだろ」
ブランクが肩をすくめる。
「相変わらずしょうのない奴っちゃな〜。まぁええわ。フライヤ、これうちらからの餞別や」
渡されたメモには、リンドブルム近郊のチョコボファームの住所がある。
「俺の古い知り合いが経営してるとこなんだが、お前さん用にチョコボを1羽用意させてある。ちったぁ旅が楽になると思うぜ」
「何と…! 重ね重ね、おぬしらに礼を申す」
フライヤが深々と頭を下げる。
「…元タンタラスのメンバーのよしみで、ほとんどタダ同然に貰い受けたズラ」
ぼそりとシナのつぶやきに、景気の良いバクーの拳固の音が響いた。あははは、と笑い声が一斉に起こる。
「―――それでは名残惜しくなる故、これにて失礼する」
「達者でな」
フライヤの背中が劇場街の曲がり角に消えた後も、ジタンは最後までどこかへ雲隠れをしたままで、見送りのタンタラスの面々はやれやれと溜息をついてアジトの中へと戻って行った。

竜座の門を出て、フライヤは街道をひたすら歩む。やがて別の街道と道が交わる所にさしかかった。このまままっすぐ行けば南ゲート。右に行けばアレクサンドリア。左に行けば懐かしきブルメシアだ。目指すチョコボファームは…。
「チョコボファームへ行くなら、右だぜ。綺麗なお姉さん」
突然頭上から降ってきた声に、フライヤはバッと交差路に立つ木々の1つを見上げた。
「よっと」
フライヤの目の前に、見慣れた金色の尻尾が木から降りて着地する。
「ジタン! おぬし何故このような所におるのじゃ!!」
「へへ。俺もさ、フライヤと一緒に旅に出ようと思って。俺の故郷を探すんだ」
「なっ…!!」
思わず声を荒らげる。
「何を考えておるのじゃ! 幾千の山を越え、幾千の谷を渡り、あてもなくこの広い大陸を旅する辛さをおぬしは知らぬ! おぬしのような子供が、生半可な覚悟で出来る旅ではないのだぞ?! だいたいバクー殿はご存じなのか?」
おそろしく険しい表情のフライヤに、ジタンもまた真剣にうなずいた。
「ボスは知ってるよ。その証拠に、フライヤの見送りに俺がいなくても、全然気にしてなかったろ」
「確かにそう言われてみれば…」
無論ジタンの言葉は全くのデタラメで、養い親のおおざっぱな性格を知り尽くしているからこその物である。彼はバクー宛の手紙を、バクー愛用の眼鏡ケースの中に隠して来たのだった。これなら夜遅くになるまで家出を悟られて連れ戻される心配もない。
「だろ? 可愛い子には旅をさせろって苦から言うじゃないか。俺、フライヤの行く所なら、どこでもお供するって前に言ったろ? ボスもフライヤと一緒なら安心だって言ってたし」
「ダメじゃ。たとえバクー殿の許しを得たとしても、私は許さぬ。疾く帰るのじゃ!」
「だってここで今更タンタラスに戻ったら、それこそ男じゃないぜ。下手すりや、逆にタンタラスから追い出されちまう」
「ダメじゃと言うておる」
フライヤは頑なに首を縦に振ろうとしない。
「…俺、フライヤに見捨てられ、タンタラスにも戻れないとしたら、知らない街を渡り歩くうちに、いつかきっと盗みにへマして捕まっておたずね者になって、その後はお決まりのトレノのスラムの連中のように身を持ち崩して、ある日ついにトレノの水路に浮かぶ死体になるんだ…」
実に哀れっぽい演技で、フライヤの義侠心に訴えて来る。
「おぬしが例えどのような状況に陥ろうと、実際にそういった連中と同じ運命を辿るようなヤワな根性の持ち主には、どうにも見えぬがの」
誉め言葉なのか、けなしているのか。2人の珍妙なやりとりは、既にタンタラス内でも迷コンビとひそかに渾名されていた。
「じゃが…」
こいつは放っておけば、絶対盗みを働く。持ちギル全て賭けても良い位だ。
「私は1人旅で、フラットレイ様らしき人物が立ち寄ったという街道の村と町に行き、それから片刃の槍を持つ竜騎士が向かったという峠を越えるのじゃ。…どこぞの尻尾の行く先と偶然重なる事も、たまたま道中を共にする事も、長い旅の間にはあるかも知れぬの」
「え、じゃあ?!」
ジタンの顔がぱぁっと明るくなる。
「…どうせ帰れと言うても、勝手について来るのであろう。よいか、ジタン。旅の間は決して盗みを働かぬ事。万一約束を破るような事あらば、最早おぬしとは赤の他人。事と次第によっては即刻おぬしを切って捨てる。よいな?」
静かな気迫を込めてジタンを晩め付けるが、本人は尻尾をぱたぱたとさせながら、嬉しそうにうんうんと何度も領いてみせる。…とても本気で約束を守るような態度とは、到底思えぬ。
―――前途多難な旅になりそうじゃの…。
それでも人様の物を盗み出す行為を、みすみす放っておく訳にはゆかぬ。自分が竜騎士に生まれついた事を、この時ほど呪わしく思った時はない。
これ見よがしに深々と溜息をつくフライヤの尻尾も、ゆっくりとした動きで揺れている。1人孤独に旅する寂しさを身にしみて知るからこそ、誰かが共に在るという事が何よりも嬉しく心強い。
「そうと決まったら、チョコボファームへ急ごうぜ。……うわっ?!」
「ジタンっ?!」
フライヤの手を取ろうとして、思わず足元の自分の荷物に蹴つまづく。倒れ込んだ先に、フライヤがいた。とっさに受け止めたフライヤの胸元に、ジタンがちゃっかり顔を埋めている。
「(うわあ、柔らか〜い♪)」
ゲシッ!!
新しい槍の柄で思い切り殴られたジタンが、地面にめり込んでいた。
「いつまでこうしておるのじゃ、この痴れ者がッ!! おぬしなど、勝手にどこぞでのたれ死ぬが良いわ!!」
威嚇の尻尾をピンと天高く立て、怒気を振りまきながらスタスタと歩き出すフライヤの後を、速攻で復活したジタンが追う。
「ちょっと待ってくれよフライヤ、今のは偶然だってば〜」
「ええい、うるさいわ! 付いて来るでない!!」
フライヤはまとわりつくジタンを徹底的に無視する。
「じゃあさ、フラットレイって奴だったらO Kな訳?」
ドガッ!!
「痛てっ! なにすんだよ!」
返事の代わりに乙女の鉄拳…いや竜騎士の蹴り。
ぎゃあぎゃあと、何ともにぎやかな2人組の声が、いつまでも街道に響き渡りながら、次第に遠ざかって行った。



−FIN−



        


もしもこのお話が少しでも気に入って下さいましたら、拍手ボタン←をポチっと押してやって下さい。
次回作の、何よりの励みになります。